下の子が生まれて喜んでいたのも束の間、上の子の「赤ちゃん返り」に悩んでいませんか。
「自分でできるはずなのに」「どうして今なの」と、ついイライラしてしまうこともあるでしょう。
しかし、赤ちゃん返りは子どもの心が成長している大切なサインです。
この記事では、赤ちゃん返りの原因から具体的な対応方法、そして親自身の心のケアまで、専門家の知見を交えながら詳しく解説します。
この記事を読めば、子どもの行動に隠された本当の気持ちがわかり、親子関係がより良い方向へ進むはずです。
そもそも赤ちゃん返りとは
赤ちゃん返りとは、一度できるようになったことを「できない」と言ったり、以前よりも甘えが強くなったりする子どもの行動のことです。
主に2歳から6歳頃の未就学児に見られ、下の子の誕生や環境の変化をきっかけに起こります。
これは決して「わがまま」ではなく、変化に適応するための自然なサインです。
子どもが周囲の変化を敏感に感じ取り、親の愛情を確かめようとする、ごく自然な心の動きなのです。
心理学では「退行(たいこう)」と呼ばれ、成長の過程で誰にでも起こりうる健全な現象とされています。
大切なのは、この時期を「困った行動」ととらえるのではなく、子どもからの「愛情のサイン」として受け止めることです。
なぜ起こる?赤ちゃん返りの主な原因と子どもの気持ち
赤ちゃん返りには、子どもなりの理由があります。
行動の背景にある心理を理解することで、親としての対応も変わってくるでしょう。
環境の変化による戸惑いや不安![]()
下の子の誕生は、上の子にとって人生で初めての大きな環境変化です。
それまで独占していた親の愛情を、誰かと分け合わなければならない。
この事実は、子どもにとって想像以上に大きな衝撃なのです。
「自分の居場所はまだあるのだろうか」「お母さんは私のことを忘れてしまうのではないか」そんな不安が、子どもの心に静かに広がっていきます。
引っ越しや入園など、他の環境変化が重なると、さらに不安は強まります。
見えない不安を抱えた子どもは、赤ちゃんのように振る舞うことで「私もまだ小さいから、見ていてね」と親に訴えているのです。
親からの愛情を確かめたいという心理
子どもは本能的に「自分は愛されているか」を確認したがります。
下の子へのお世話に忙しい親の姿を見て、上の子は「もしかして、もう私のことは大切じゃないのかな」と感じてしまうのです。
そこで、わざと困らせるような行動をとることがあります。
これは心理学で「試し行動」と呼ばれ、親の反応を見て愛情を測ろうとする行為です。
「こんなことをしても、お母さんは私を見てくれるかな」「叱られても、それは関心を持ってくれている証拠」と、子どもなりに確認しているのです。一見困った行動も、実は「お母さんが大好き」というメッセージなのです。
成長の証としての「甘え」と「自立」の繰り返し
子どもの成長は、一直線に進むわけではありません。「自分でやりたい」と自立心を見せたかと思えば、翌日には「できない、やって」と甘えてくる。この行ったり来たりは、実は健全な発達の証なのです。赤ちゃん返りは、新しいステップへ進む前に、もう一度安全基地である親のもとで「充電」しているような状態です。
十分に甘えて心が満たされれば、子どもは再び自分の足で歩き出していくのです。
「これって赤ちゃん返り?」よく見られる行動とサイン
赤ちゃん返りには、さまざまな形があります。代表的な行動を知っておくことで、適切な対応ができるでしょう。
甘えが強くなる・抱っこを求めるようになる
今まで一人で歩いていたのに「抱っこ」とせがんだり、ずっと後ろをついてきたりする姿が見られます。
特に親が下の子を抱いているときに、強く要求することが多いでしょう。
寝るときも「一緒に寝て」「お母さんの隣がいい」と、ぴったりくっついて離れません。
これは「私も赤ちゃんと同じように抱っこしてほしい」という、ストレートな愛情要求です。
身体的な接触を通じて、親との絆を再確認しようとしているのです。
朝の忙しい時間や外出先では大変かもしれませんが、可能な限り応えてあげることで、子どもの心は少しずつ安定していきます。
かんしゃく・反抗・乱暴な言動が増える
些細なことで大泣きしたり、「イヤ!」と強く反抗したりする場面が増えます。物を投げる、叩く、噛みつくといった乱暴な行動が見られることもあるでしょう。
これまで穏やかだった子どもが急変すると、親は戸惑いと不安を感じるかもしれません。
しかし、この行動は「自分の気持ちをうまく言葉にできない」もどかしさの表れです。
多くの幼児期の子どもは、感情を適切に表現する言語能力がまだ十分に発達していません。
「悲しい」「寂しい」「不安」といった複雑な感情が、怒りやかんしゃくという形で外に出てしまうのです。
行動の裏にある本当の気持ちに目を向けることが大切です。
夜泣きや「できていたことをしない」行動
夜中に何度も起きて泣いたり、トイレトレーニングが完了していたのにおもらしをしたりすることがあります。
自分で着替えられたのに「できない」と言ったり、ご飯を食べさせてもらおうとしたりする姿も見られるでしょう。
赤ちゃん言葉で話したり、哺乳瓶を欲しがったりするケースもあります。これらの行動は、「もう一度赤ちゃんに戻りたい」という気持ちが潜んでいるのかもしれません。
成長への期待やプレッシャーから少し離れて、安心できた頃に戻りたいという思いが表れている場合もあります。
焦って「もうお兄ちゃんでしょ」と叱るのではなく、一時的な現象として温かく見守る姿勢が必要です。
【実践】上の子の赤ちゃん返りへの接し方 9選
ここからは、日々の生活の中で実践できる具体的な接し方をご紹介します。完璧を目指す必要はありません。できることから少しずつ取り入れてみてください。
1. まずは子どもの気持ちを言葉で受け止める
子どもが泣いたり怒ったりしたとき、すぐに「泣かないで」と止めるのではなく、まず気持ちに寄り添いましょう。
「悲しかったね」「寂しいのね」と、子どもの感情を言葉にして返してあげるのです。
これを心理学では「感情の言語化」や「反映」と呼びます。
自分の気持ちを理解してもらえたと感じると、子どもの心は落ち着きを取り戻します。
たとえ言葉で表現できない小さな子どもでも、親が気持ちを代弁してくれることで「わかってもらえた」という安心感を得られるのです。
この積み重ねが、後に自分で感情をコントロールする力へとつながっていきます。
2. 意識的にスキンシップの時間を増やす
抱っこやおんぶ、頭をなでる、手をつなぐなど、身体的な触れ合いを意識的に増やしましょう。
スキンシップは、親子の身体的接触によりオキシトシン(愛情ホルモン)が上昇するという報告があり、そのことが親子関係の安定・絆を深める要因の一つになる可能性があります。
下の子のお世話で忙しいときこそ、上の子にも「あなたも大切だよ」と伝える時間が必要です。
朝起きたときのハグ、寝る前のぎゅっと抱きしめる時間など、日常の中に小さな触れ合いを組み込んでみてください。
最初は「時間がない」と感じるかもしれませんが、ほんの数秒の抱っこでも子どもの心は満たされます。
肌と肌の触れ合いは、言葉以上に深い安心を届けてくれるのです。
3. 1日5分でも2人だけの特別な時間を作る
下の子が寝ている時間や、家族に預けている間など、たとえ短くても上の子と2人だけで過ごす時間を作りましょう。
「今からは◯◯ちゃんと2人の時間だよ」と声をかけるだけで、子どもは特別感を味わえます。何か特別なことをする必要はありません。
一緒に絵本を読む、お絵描きをする、おやつを食べながらおしゃべりするだけでも十分です。
大切なのは「あなただけを見ている」という親の姿勢が伝わることです。
この時間は、スマートフォンを置いて、子どもだけに集中しましょう。
「ママを独り占めできた」という体験が、子どもの心を大きく満たしてくれます。
4. 頑張りを具体的に褒めてあげる
「えらいね」だけではなく、「今日は自分で靴を履けたね」「弟に優しくしてくれてありがとう」と、具体的な行動を褒めましょう。
子どもは「自分の頑張りを見てくれている」と実感できます。
特に、下の子のお世話を手伝ってくれたときや、我慢して待っていてくれたときには、すかさず言葉にして感謝を伝えてください。
「お姉ちゃんになったから頑張らないと」というプレッシャーではなく、「あなたがいてくれて助かった」という感謝の気持ちを届けるのです。
認められる経験が積み重なることで、子どもは自己肯定感を育み、自然と前向きな行動が増えていきます。
5. 簡単なお手伝いをお願いして役割を与える
「おむつを持ってきてくれる?」「お水を持ってきてもらえる?」など、上の子にできる簡単なお手伝いをお願いしましょう。
これにより「自分も家族の一員として役に立っている」という実感が生まれます。
心理学者のアドラーは、人は「共同体の中で役に立っている」と感じたときに幸福感を得ると説明しています。
小さなお手伝いでも、子どもにとっては「必要とされている」証拠です。
できたときには「助かったよ、ありがとう」と必ず言葉で伝えましょう。赤ちゃんにはできない「お兄ちゃん・お姉ちゃんだからこそできること」が、子どもの自信へとつながります。
6. 「ありがとう」「大好き」を言葉で伝える
当たり前のことでも、言葉にして伝えることが大切です。
「いてくれてありがとう」「◯◯ちゃんが大好きだよ」と、日常の中で愛情を言葉にしましょう。
子どもは親の愛情を疑っているわけではありませんが、不安な時期だからこそ、何度でも確認したいのです。
特に寝る前の静かな時間に「今日も一緒にいられて嬉しかった」「明日も楽しみだね」と語りかけることで、子どもは安心して眠りにつけます。
言葉は見えない心の栄養です。たとえ忙しくても、1日に一度は「大好き」を伝える時間を作ってみてください。
その積み重ねが、子どもの心の土台を強くしていきます。
7. 叱るのではなく短い言葉で注意する
危険なことや人を傷つける行動には、もちろん注意が必要です。しかし、長々と説教するのではなく「痛いからやめようね」「そっと触ろうね」と、短く具体的な言葉で伝えましょう。子どもは長い説明を理解する余裕がなく、怒られた記憶だけが残ってしまいます。
感情的に叱ると、子どもは「やっぱり自分は愛されていないのかも」と不安を強めてしまうかもしれません。
穏やかなトーンで、してほしい行動を明確に示すことが大切です。「ダメ」ではなく「こうしようね」と、前向きな言葉を選ぶことで、子どもも素直に聞き入れやすくなります。
8. できないことはハードルを下げてあげる
「自分で着替える」が難しければ「上だけ着てみる?」、「一人で寝る」が怖ければ「手をつないで一緒に寝よう」と、できる範囲で調整しましょう。
完璧を求めず、今の子どもにできることから始めるのです。
心理学では「スモールステップ」と呼ばれ、小さな成功体験を積み重ねることで自信を育む方法です。
一度できていたことができなくなるのは、子どもなりのSOS信号です。無理に元のレベルに戻そうとせず、今の状態を受け入れて寄り添うことが、結果的に早い回復につながります。
子どもは安心すれば、自然とまた挑戦し始めるものです。
9. 周囲のサポートを積極的に活用する
一人で抱え込まず、夫やパートナー、祖父母、友人など、頼れる人には遠慮なく助けを求めましょう。
「ちょっと上の子と遊んでもらえる?」「30分だけ見ててほしい」と、具体的にお願いすることが大切です。
また、地域の子育て支援センターや一時預かりサービスも、有効な選択肢です。母親一人がすべてを担う必要はありません。
多くの手で子どもを支えることで、親自身にも余裕が生まれます。
余裕がある状態でこそ、子どもに穏やかに接することができるのです。
「助けてもらうこと」は決して弱さではなく、賢い子育ての一つの形です。
赤ちゃん返りはいつまで続く?
赤ちゃん返りの期間には個人差がありますが、多くの場合、数か月程度で落ち着くことが多いとされています。
中には数週間程度で済むこともあれば、半年以上続くケースもあります。
下の子の存在に慣れ、親の愛情を再確認できれば、自然と元の状態に戻っていくのです。
ただし、焦りは禁物です。「早く終わってほしい」という気持ちが子どもに伝わると、かえって不安を長引かせてしまいます。
今、あなたの目の前にいる子どもは、小さな心で必死に変化に適応しようとしています。
その姿を「困った行動」ではなく「頑張っている証」として見つめ直してみてください。
いつかこの時期を振り返ったとき、「あの頃は大変だったけれど、大切な時間だった」と思える日が必ず来ます。
親自身のストレスを軽減するセルフケアと周囲への頼り方
親が心身ともに疲れ切っていては、子どもに優しく接することは難しくなります。
だからこそ、自分自身のケアも同じくらい大切なのです。
たとえ短時間でも、一人でお茶を飲む、好きな音楽を聴く、散歩をするなど、自分だけの時間を作りましょう。
罪悪感を感じる必要はありません。親がリフレッシュすることは、結果的に子どもにとってもプラスになります。
また、パートナーや家族に正直に「つらい」と伝えることも大切です。「大丈夫」と無理をせず、「今日は疲れたから助けてほしい」と言える関係性を築いていきましょう。
あなた一人ですべてを背負う必要はないのです。
まとめ
この記事では、赤ちゃん返りの原因から具体的な対応方法までを解説しました。
赤ちゃん返りは、子どもが親の愛情を再確認し、次の成長ステップへ進むための大切な過程です。
イライラを抑え込むよりも、まずは自分のストレスに気づき、ケアすることが大切です。
そのうえで、落ち着いた気持ちで子どもに寄り添えるようにしていきましょう。
スキンシップを増やし、2人だけの時間を作ることで、子どもの心は満たされます。
完璧を目指さず、周りの助けも借りながら、この時期を乗り越えていきましょう。
あなたの愛情は、必ず子どもに伝わっています。